直線突き抜けたダイリンウィーク ガルホームの九州2歳重賞完全制覇ならず 佐賀新聞杯第22回九州ジュニアチャンピオン (2011年11月20日・佐賀1750m・2歳四国九州交流・曇・重) 「九州競馬」のスタートにともない、01年から2歳戦は荒尾の九州ジュニアチャンピオンから佐賀の九州ジュニアグランプリへと続く2重賞での体系が設定されているが、この2競走の両方を勝って九州2歳重賞完全制覇を達成した馬は、これまで出現していない(下表参照)。改めて表にしてみたところ、「両レースの勝ち馬がともに両方のレースに出走していた年」というのがそもそも1つもない、ということに改めて驚かされた。 九州ジュニアGPを勝利した後、九州ジュニアChで2着だった馬は過去にカシノオウサマ、ギオンゴールドの2頭が出ているが、九州ジュニアChの勝ち馬はそのほとんどが九州ジュニアGPを使わずに、地元佐賀で2歳特別やJRA認定競走に出走していた馬で、この時期の2歳重賞で1750メートル戦ともなると、直近で遠征した経験よりも地元でじっくり構えた馬の方が有利という傾向となるのかもしれない。 また、この競走体系では九州ジュニアGPは九州ジュニアChのトライアル的位置づけとされており、佐賀の2歳馬の中ではトップクラスから1枚落ちあたりの評価の馬が、九州ジュニアGPに向かう構図もあったといえるだろう。それゆえ、荒尾で重賞を勝利しても、佐賀に戻って九州ジュニアchに出走した3頭はそれほど高い人気には推されてはいなかった(翌年九州三冠を達成したカシノオウサマの評価が急上昇したのは3歳春に入ってからで、九州ジュニアGP勝利時はデビューから10戦を消化しての2勝目ということもあり、それほど高い評価を受けてはいなかった)。 08年以降は未来優駿シリーズが創設され、九州ジュニアGPがこのシリーズに組み込まれて賞金増額となったため、九州ジュニアGPの方が高額賞金レースとなり、佐賀の2歳上位の馬もこのレースへ向かうようになり、シリーズ初年度の08年にはギオンゴールドが勝利。続く九州ジュニアChでは、初めて両レースでともに1番人気に推されることとなったが、パスカルの2着に敗れている。その後は09、10年と続けて九州ジュニアGPの勝ち馬が九州ジュニアChには出走せず、2歳重賞完全制覇の可能性すら発生してない(もっとも、その年の九州ジュニアChの勝ち馬はネオアサティスやウルトラカイザーだっただけに、出走していても勝利は困難だったかもしれないが) 荒尾競馬の廃止決定により、この2場での重賞体系で行われるのも今年が最後となり、すなわち2重賞完全制覇もラストチャンスの年となってしまった。しかし今年はガルホーム(牡、真島元徳厩舎)が九州ジュニアGPを荒尾1500メートルの2歳レコードタイムで圧勝しての参戦。ここまでの5戦のうち、佐賀・荒尾での4戦は圧勝続きで、唯一の敗戦となった3走目のフェニックス賞(JRA小倉)での敗戦は「外から馬が来たのに驚いて内に逃げてラチに接触。その反動で今度は外へと逃げてしまった。ただ、ダート馬なのかもしれないね(真島元徳調教師)」と、コーナーでのアクシデントと芝適正不足でのもので、地元戦でのここは快勝して2歳重賞完全制覇の達成が大きく期待されていた。 ガルホームが荒尾遠征のローテーションを取ったため不在となった時期の佐賀2歳特別戦は、道営から移籍してきたダイリンウィーク(牡、佐賀・東眞市厩舎)がフォーマルハウト賞、シリウス賞と1750メートル戦を2連勝。ガルホームとはここまで対戦が無いものの、同馬と既に対戦した馬はいずれも大きな差を付けられて敗れていたため、それらの馬に勝利しているこの馬が唯一ガルホームに対抗しうる馬と評価され、単勝人気では2番人気に推されたが、ガルホーム1.0倍、ダイリンウィーク7.0倍と、その差はやはり大きなものだった(ちなみに3番人気リョウマジャパンは42.3倍と、上位2頭との差は大きいどころの話ではなかった)。 スタートからガルホームが前走同様に先頭に立ち、追う2番手にダイリンウィーク、ヨシノタキシードが付けて前の位置取りはすんなりと収まったものの、1周目ゴール前あたりでダイリンウィークが単独の2番手へ。その後は先頭2頭が後続を引き離し、早くも優勝争いはこの2頭に絞られた格好。ダイリンウィークが前との差を詰めればガルホームが引き離し、このままガルホームが押し切るかとも思われたが、4コーナーで再びダイリンウィークが詰め寄って2頭一騎打ちの状態で直線へ。直線半ばでダイリンウィークが抜け出しに掛かると、ガルホームに追走する余力は無く、そこからはダイリンウィークが引き離す一方となり、ガルホームに4馬身の差を付けて勝利。ガルホームは直線で伸びを欠いたものの、2頭で後続を大きく引き離していたため、2着ガルホームと3着アマクサボーイとは8馬身もの差がついていた。 敗れたガルホームの真島騎手は「普段どおりのレースは出来てたんですけどね。うーん、俺の馬が距離が持たなかった、ということかなぁ…」と語っていたが、勝ち馬に終始プレッシャーを受けながらも直線までは持ちこたえており、この時点での距離対応力では勝ち馬に敗れたものの、この1戦で距離不適と判断するのは早計だろう。この敗戦で荒尾・佐賀の九州2歳重賞完全制覇馬の誕生はついにならなかったが、九州ジュニアGP勝利→九州ジュニアCh2着となった過去の2頭はカシノオウサマ、ギオンゴールドと九州3歳重賞戦線の歴史に残る馬だけに、3歳戦線での立て直しに期待したいところ。また、九州ジュニアGP勝利時に真島調教師は「栄城賞までは地元戦主体で」との方針を示していたが、今後のローテーションについては「負けてしまったので、(今年まだ使うかを含めて)未定ですね」とのこと。 勝ったダイリンウィークは佐賀1750メートルで2勝のほか、道営での1700メートル戦で2、3着の実績があり、今回の出走馬のなかではこの距離での実績が抜けていた。「ガルホームに勝つには自分で動いていくしかない。あの位置に付けるにはスタートだけは切れてもらわないといけなかった。並んでいれば渋太く行けるんじゃないかと思ってました(東眞市調教師)」と、理想どおりの展開に持ち込んでの勝利といえるだろう。次は暮れの小倉のダート1700メートル戦を目指す予定とのこと(12月25日の樅の木賞が該当)。距離については「まだ遊んで走っているところがある馬なので、(距離が延びても)関係ないですね(山口勲騎手)」と、まだまだ余裕があるだけに、3歳重賞でも活躍してくれそうだ。 九州ジュニアGPを圧勝して、九州ジュニアChでも圧倒的人気で臨んだものの、道営から移籍して佐賀の1750m戦で距離適性を見せていた馬の2着に敗れる、という結果は、どことなく08年のパスカル優勝、ギオンゴールド2着を思い起こさせるものがあるが、さて3歳戦で両馬の力関係の逆転があるのかどうか。ガルホームが敗れたとはいえ、これで3歳戦の楽しみも増えるのでは?とも思うのだが、「うーん、出ていかないでずっとこっちにいてくれれば、ね(東眞市調教師)」ということで、やっぱり最大の敵は移籍なんでしょうかね(ちなみに東師の発言は、「どっちの馬が」ということではなく、一般論としてのお話です) 今回はダイリンウィーク、ガルホームの上位2頭の一騎打ちとなったが、その両馬以降は前走、前々走でダイリンウィークの2着だったアマクサボーイが3着、以降スナイパーギャル、スーパーマリンとこちらも2歳特別戦でダイリンウィークには大きく離されていたものの入着していた馬が入り、おおむね現状の力どおりのレース結果になったといえそう。しかし、着差は上から順に4馬身、8馬身、6馬身、4馬身とバラバラの入線。また、1、3着馬は道営からの転入馬で、佐賀デビュー馬はガルホームは別格としても、4着スナイパーギャルはダイリンウィークから3秒4差と、地区レベルの差はますます広がってきている感がある。 さて、荒尾廃止後は「九州地区」としては佐賀のみとなるため、このレースなどの九州(以上)交流重賞の名称についている「九州」はどうなるのだろうか?九州交流化以前の「ジュニアチャンピオン」に戻るということも考えられるが、現状の交流枠組みから荒尾が消えるだけ、ということになるのなら、このレースは来年は四国九州(高知佐賀)交流になるので、やっぱり「九州ジュニアグランプリ」のまま、なのかもしれない(あまり高知から来ないので目立ちませんが、九州の2、3歳重賞は四国九州交流なのが結構あります)。荒尾廃止で消滅する九州ジュニアグランプリにしても、未来優駿シリーズで賞金補助が出るのなら、佐賀へ移設という可能性もあるのかもしれない。一応、そのケース(あるいは佐賀でレース新設や特別戦での実施など)を考えて九州ジュニアGPのweb Furlong記事では”荒尾での未来優駿は今年で最後”という書き方にして、レースそのものが消滅するとは書かなかったんですけどもね。 九州2歳重賞・勝ち馬一覧
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